国際学部
藍澤 淑雄 教授
AIZAWA YOSHIO
- PROFILE
- 新潟県出身。東京大学大学院修了。博士(国際協力学)。1990年に青年海外協力隊員、1997年に国際開発センター研究員・主任研究員、2013年に秋田大学国際資源学部・国際資源学研究科准教授、2019年には拓殖大学国際学部准教授を経て現職。著書に『アフリカの零細鉱業をめぐる社会構造 貧困解消に向けたタンザニアの零細鉱業支援のあり方』(日本評論社)などがある。
研究テーマ 地域の人と社会の関係の中から生まれる価値創造
国や地域の違いを肌で感じることは、人生を豊かにする!
地域の価値を作るのは「豊かさ」。人同士のつながりや支え合いが基盤
私が事例研究を行っている国の一つにタンザニアがあります。
タンザニアは鉱物資源が豊富な国で「零細鉱業」を生計手段としている人が多くいます。零細鉱業とは、金やダイヤモンド鉱石をはつり鑿(のみ)やハンマーなどの手工具を使って採鉱する、小規模で労働集約的な採鉱業のこと。金は当てれば文字通り一攫千金ですが、簡単に掘り当てられるわけではありません。金鉱石が含まれているかもしれない岩盤まで掘り進むのに1か月かけたとしても、金鉱石が出ないことも多いのです。危険な作業で物理的なリスクだけでなく、金鉱石が出ないことによる生計リスクも生じます。採鉱作業に高度な技術は必要ありませんが、手作業のため非常に効率が悪く、貧困のサイクルを悪化させる可能性が多くあります。
なぜ、零細鉱業者たちは貧しい状態が続くのをわかっていながら採鉱を続けることにこだわるのでしょうか。現場を調べると、一緒に採鉱する仲間との支え合い・助け合いで生活を成り立たせていること、生業(なりわい)の農業とうまく両立させていることなどがわかってきました。仲間内でお金を出し合い基金をつくり、お金に困ったメンバーが借金することができる仕組みや、複数の零細鉱業グループが組合をつくり、どのグループが金鉱石を掘り当てたとしても組合全体の利益とし分配することで、組合員が生計リスクを回避できる仕組みを創出しているケースも見られました。彼らなりに小さな価値を創造しながら暮らしを成り立たせていたのです。
私はこのように、地域の「価値創造」に目を向けながら研究を行っています。価値とは結局のところ「豊かさ」と関係があり、その豊かさとは何かという問いにつながると考えます。物質的な豊かさは大事ですが、私は非物質的な豊かさを特に重要視しています。非物質的な豊かさとは、人同士のつながりや支え合いによりもたらされ、共有された社会的意識により支えられているものだと思います。そして地域に価値創造をもたらす基盤になっているのではないかと考えているのです。
研究の面白さ 新しい価値を創造できたときの高揚感
「知の冒険」という言葉がよく使われますが、研究の面白さは、まさにそこにあると思っています。過去に研究者たちが成し得た成果の中から、自分が探している研究のエッセンスを見つけたときはとてもワクワクします。また、先人たちの研究に1ミリでも新しい価値を加えられたときは、非常に高揚感があります。その1ミリの価値が、「もしかしたら人類を進化させるかもしれない」と考えると、そこに研究者の社会的意義があるのかなと思っています。
国際協力学を学んだ理由 青年海外協力隊に参加し、地域の人たちへ貢献したい想いが強固に
私が国際協力学に興味を持ったきっかけは、大学を中退して参加した青年海外協力隊での経験がきっかけです。大学時代の私は「どのように生きていくか」についての答えを探す日々でしたが、何をしても答えが見つからず、先が見えなくて鬱屈とした毎日を過ごしていました。そんなときに興味を持ったのが青年海外協力隊でした。視野を広げることができたらと応募し、2度目の受験でパプアニューギニアへの派遣が決まりました。パプアニューギニアでは、職業訓練校で青少年を対象に職業技術を教えました。日々新しい発見があり、日本とは全く異なるものの見方と価値観が存在。日本で生まれ、日本で育ったことにより形成された私の見方や価値観は、この場所でどういう意味を持つのかと考えるようになったのです。結局3年間の任期では地域に貢献するどころか、助けてもらうことばかりでした。任期終了後は、「地域にとって意味のある国際協力とは何か」ということに関心を寄せながらアメリカへ留学。その後は、政府機関の委託調査研究やプロジェクトを実施する国際開発センターや他大学などに勤務して現在に至ります。
ゼミ生と取り組むプロジェクト マレーシアと八王子・館ヶ丘団地でのプロジェクトが進行中
ゼミナールでは、2019年から、2つのプロジェクトを進めています。
ひとつはマレーシア・サバ州コタキナバル市にあるロクウライ村のプロジェクトです。
ロクウライ村は、バジャウ族が住む水上集落です。村の水辺にはゴミが山積しており、人口増加に伴い、ゴミ問題も深刻化しています。ゼミではこの村にゴミ袋を設置したり、住民たちとゴミ拾い活動を行ったりしながら、住民主体の効果的なゴミ問題の解決方法を模索しています。
ロクウライ村で暮らすバジャウ族は「海の遊牧民」とも呼ばれ、かつては伝統的な漁を行っている民族でした。コロナ禍で街への行き来ができなくなったことで生計を立てるのが難しくなった彼らは、漁を再開し、村全体で助け合って生活していたそうです。村の人びとの間には強い結びつきがあり、困難に直面したときには「無条件で助け合う」という共有された社会意識が存在しているのです。そのような社会意識に支えられた地域のつながりを基盤にしながら、地域の人たちとともにゴミ問題解決の糸口を見つけることができればと考えています。
また、国内の活動として、八王子国際キャンパス近隣の館ヶ丘団地で「暮らし向上プロジェクト」を行っています。市内で最も高齢化が進む団地であり、高齢化率は約6割。団地が建設された1970年代は高度経済成長期で核家族化が進み、団地の人気もピークとなっていた頃です。当初は若い世代や子どもが多い地域でしたが、当初から暮らす人たちは年齢を重ね、子どもたちも巣立って行きました。また、新たに入居してきた人たちが加わって、住民が多様化しながら地域は変容しています。ゼミではそのような団地で、防災訓練の実施、団地祭りへの参加、多世代間交流のイベントなどを通して、変容する地域での学生のかかわり方を模索しながら、住民の方との交流を深めています。
学生へのメッセージ 直接、地域に関わってたくさんのインプットをしてほしい
自分が生きてきた世界で解釈・理解してきたことが一歩外へ出ると全く通用しないことはよくあります。異なった世界の見方や考え方に触れることは新しい刺激を得ることができます。新しい刺激は常にいいことばかりではなく、時に挫折を招くこともあるかもしれません。ただ、それぞれの国や地域の違いを体で感じることは、大きな学びをもたらし、人生を豊かにすると思います。
私は、自身のゼミを「失敗するゼミ」でいい考えます。成功も失敗も、すべてが貴重な経験になり、成長のためのインプットになるからです。インプットしなければアウトプットはできません。本などから知識を得るだけでなく、地域にかかわり刺激を受けることは重要なインプットです。多様で複雑な世界に身を置いてみると、そこで受ける刺激が全てインプットとなります。それを自分なりに咀嚼して、アウトプットしていってほしいと思っています。いろいろな刺激を受けながら、学生生活をワクワクしながら過ごしてください。