Teacher’s Eye 研究最前線 Teacher’s Eye 研究最前線

工学部

小島 和枝 准教授

KOJIMA KAZUE

PROFILE
埼玉県出身。2001年拓殖大学外国語学部英米語学科卒業。2003年城西国際大学大学院人文科学研究科修士課程修了後、2003年から2005年までアメリカ Western Illinois University大学院で社会学研究に励む。2006年からは渡英し、University of Edinburgh とUniversity of Yorkの大学院で学び終えた後、2017年に帰国。大手企業で同時通訳を務めた後、厚生労働省での勤務を経て、2018年4月に拓殖大学政経学部および同大学院言語教育研究科の非常勤講師として入職。2021年4月より現職。

研究テーマ 英語学習の意欲維持と「TESOL」の活用

英語が話せるようになれば、
世界が広がるチャンスが増える!

英語学習で大切なのは、
間違いを恐れずに楽しむこと。

 「TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)」は、英語を母語としない方に向けた英語教授法のひとつで、コミュニケーションを土台とした教育法、英語修得を目的としたアクティビティなどを体系的にまとめたものです。私はこのTESOLをベースとしながら、英語学習に対するモチベーションの維持に関する研究を行っています。

 とある調査において、「高校生は大学受験を控えているため英語学習へのモチベーションは高いが、大学生になると意欲が低下する」という結果が発表されました。しかし私は、この結果に疑問を感じます。なぜならほとんどの大学生は、就職活動や海外旅行、そのほかの趣味を楽しむうえで「英語を使えた方が断然有利/便利」と理解しているからです。大学生の英語学習に対するモチベーションが低下する原因は、英語教育にこそ問題があるのではないか。その仮説のもと、研究に取り組んでいます。

 実は私も、かつては英語が嫌いでした。というのは、中学校の英語教師が「今から発音を練習しても、ネイティブみたいに話せるようにはならない」など、ネガティブなことばかり言う先生だったのです。私は学習意欲を失ってしまい、成績は悪くなる一方でした。しかし、高校では真逆ともいえる先生に出会いました。授業は「間違ってもいい。コミュニケーションを図ることが大事」という方針のもとで行われ、ときには海外での実体験を話してくださることも。そのおかげで、私は英語や異文化交流に興味を持てるようになりました。交換留学プログラムにも参加し、現地の高校生との交流を通して、英語でコミュニケーションを取ることの楽しさを体感できました。そして、「もっと英語を学んで、さまざまな国や地域に行ってみたい!」と強く思うようになったのです。私と同様な体験を、1人でも多くの学生さんたちにしてもらえたらという思いで研究に取り組んでいます。

 現在は高校生と大学生に対する量的調査を終え、その結果をまとめているところです。今後は1人ひとりにインタビューを敢行し、テーマをさらに深く掘り下げていきたいと思います。

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University of York 大学院博士課程修了時の一枚。
特に勉学に励んだ時期でもあり、夢を実現することが
でき、嬉しかったです
拓殖大学の恩師 恩師に背中を押され、
米・英の大学院へ

 交換留学で海外への興味を強くした私は、高校卒業後は海外で生活したいと考えるようになりました。学部生時代に英語を指導してくださったのが、現在副学長を務めていらっしゃる山田 政通先生でした。山田先生から「海外に出た方がいい。教科書では学べないことがたくさんある」と、背中を押されたからでした。実際に、英語力は伸びましたし、何よりもさまざまな異文化を体験したことにより、自信もつきました。いろんな国の文化や違いを知ることに楽しさを感じ、アメリカやイギリスの複数の大学院で研究を進めていきました。

英語教授法を学んだ理由 英語を教える難しさを知ったイギリス時代

 イギリスは本当に住み心地が良い国でした。特に素晴らしいと思ったのは、「国民保健サービス(National Health Service)」です。これを利用すれば、一般的にイギリス国民はもちろん、居住者であれば外国人でも医療費が無料になるのです。

 イギリスで暮らし始めて間もない頃、発疹が出たため病院に行ったことがありました。薬を処方された後、診察料をどのように支払うかわからず戸惑っていた私に声を掛けてくれたのは、1人の看護師。「診療は終わったのだからもう帰って良いのよ」と言われました。彼女には診察料を払うという感覚がなかったのです。収めている税金に含まれているので、支払う必要はないのです。というのも、アメリカ留学の際には、救急車を呼ぶだけでも数千ドルかかると言われたことがあり、イギリスでは果たしてどのくらいの金額を支払わなければいけないのかと戦々恐々としていました。外国人の私を含めて、誰でも医療費を支払うということは、医療の現場ではないのです。つまり、この国ではすべての命が平等に扱われているのだと感じ、この国に住み続けたいと思った出来事でした。

 一方で、イギリスには生活が困難な外国人も多くいます。それは、難民の方々です。自国では医師や建築士などとして働いていたにもかかわらず、英語が話せないというだけで働き口が見つからないという方たちがいるのです。私は、その方々に対して英語を教えるボランティアを行っていました。異なる文化を持つ方々に対して指導するという部分では、拓殖大学で学んだ日本語教授法が大いに役立ちました。しかし、英語を教えるとなると、また違った知識やスキルが必要だということがわかり、英語教授法を学ぶことを決意。The University of Edinburgh大学院教育学部で、TESOLに関する研究に取り組み始めました。

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日本からは訪れにくいキューバですが、充実した旅行でした。
拓殖大学に入職した理由 厚生労働省から、拓殖大学の教員へ

 教員になりたいという気持ちは大学生の頃からずっと抱いていた中ではありましたが、就職活動を経て、拓殖大学で教鞭を執らせていただけるという機会をいただいたのは、帰国して数ヶ月経った頃。当時勤務していたのは、研究と仕事を両立できる厚生労働省の自殺対策推進室という部署です。先進国の中でも自殺率の低いイギリスに関する社会学的な知識があり、英語を使える人という条件での求人に応募し、採用されたという経緯がありました。非常にやりがいのある業務内容だったため、悩みましたが、思い切って挑戦してみることに。今では、教えることにこの上ない充実感を覚えているため、この道を選んでよかったと心から思っています。

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国際コースでの指導 「楽しく学ぶ」を目標として指導しています

 工学部では「国際コース」の学生に対して、英語学習や、留学に係る全般の指導を行っています。このコースでは、世界で活躍するエンジニアの養成をめざしており、最長で2年間留学できることが大きな特長です。工学の基礎を学びながら、留学前の1年半で留学の条件となるTOEFLの得点を取得するだけでなく、留学先の講義についていけるようになるまで専門知識や英語力を磨きます。

 指導する学生には、英語に苦手意識を持っている方が少なくありません。前述した研究のリサーチ結果などを参考にしつつ、どうしたら英語を好きになってくれるか、モティヴィェーションを保ってもらえるかを考えながら授業を行っています。

 例えば、英会話の練習ではジェンガを使うことも。抜き取ったブロックの側面に書かれた英文を読み、相手が英語で答えるなど、できるだけ楽しく学んでもらえるようなアイデアを盛り込んでいます。

 現在、国際コースで学ぶ学生は4名。1人ひとりとしっかり向き合い、それぞれに合わせた形で指導することも心掛けています。

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イギリス外交官・研究者のアーネスト・サトウによる回想録『ケンブリッジ近代史』の翻訳に携わりました。写真は関連書『変革の目撃者』(晃洋書房)
地域連携講座について 地域の方にも、英語の面白さを伝えるために

 拓殖大学で注力していることのひとつに、「地域連携講座」があります。これは、地域社会との連携・交流および活性化に貢献することを目的としたもので、多彩なプログラムが行われています。私が担当している講座は2つあり、ひとつは、高尾登山電鉄の社員の方への英語指導です。インバウンド対応力を高めることをめざし、外国人観光客に対してケーブルカーやリフトの乗り方、さる園での猿の説明や登山中の注意点など、説明方法を教えるほか、英語表示や各種イベント時の翻訳にも携わっています。

 そしてもうひとつは、高大連携講座です。これは、八王子実践高等学校の生徒をお招きし、大学の授業を学んでもらおうというもので、高校2年生を対象として、英語の授業を行っています。高校生から刺激を受け、学ぶことも多いです。

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地域連携講座(高尾登山電鉄の社員の方への指導の様子)
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八王子実践高校2年生に向けた授業の様子
学生へのメッセージ 学生時代に、日本を飛び出して世界を見て欲しい!

 拓殖大学に通う皆さんに伝えたいのは、大学の制度を活用しないともったいないということです。多彩な留学制度があるので、条件や希望に合わせて利用し、一度、海外に出てほしいと強く願っています。異文化に触れることで視野を大きく広げることができますし、成長できると強く思うからです。また、留学経験があることが就職活動時に有利に働くかもしれません。英語を使えれば、進路の選択肢を増やすことや良い条件の企業をめざせるようになる可能性も高まります。最初は、間違っても伝わればいいというところからでいいのです。自分の好きなことを上手に取り込みながら、楽しく学んでいきましょう。そうすればおのずと、もっと英語で話したいと思うようになるはずです。

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