野島 一人さん KAZUHITO NOJIMA
本田技研工業株式会社 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部 商品開発部 商品開発課
- [ PROFILE ]
- 神奈川県出身。2008年、拓殖大学工学部機械システム工学科卒業。同年、本田技研工業株式会社(ホンダ)に入社。以来、一貫して二輪車製品の開発に携わる。当初は埼玉県内にある開発拠点にてトランスミッション系の業務に従事。2012年、熊本県内に新設された開発拠点へ異動。現在は開発チームをとりまとめる責任者代行を務め、製品発表会や試乗会など海外出張も多い。
やりたいことが見つからない人こそ、まずは行動。
自分の目で見て、手で触れる経験を大切に。
私は2008年に新卒でホンダに入社し、以来ずっと二輪車の開発に携わってきました。二輪車製品には2タイプあり、ひとつは新聞配達などの仕事や、移動する事を目的に使うコミューターバイク。もうひとつが、私が担当している、ツーリングなど趣味として使うことを目的としたファンバイクです。また、開発段階は設計とテストに大別されますが、私は主にテストのほうに関わっています。
ホンダのファンバイクはほとんどが海外市場向けであるため、製造拠点は世界各地にあります。一方、開発については一部現地で行う部分もありますが、本拠地はあくまでも日本です。私が入社したころは埼玉県朝霞市にのみ、その拠点がありました。開発部隊はエンジン、フレーム、シャーシといったパーツで所属するグループが分かれています。私は最初トランスミッションのチームに配属となり、クラッチなど駆動系部品を担当しました。
埼玉で4年間勤務した後、2012年、熊本に開発拠点が新設されるのに伴い、立上げメンバーとして異動することに。私は東京生まれの神奈川育ちで、それまでの生活はずっと首都圏でした。就職したあとも、大がかりな施設を必要とする開発部門に転勤はないと思っていたのに、まさかの熊本移住となったわけです。でも、住んでみればとてもいいところで、食べ物はおいしいし自然も豊か。もちろん本社のある東京を含めて関東地方には頻繁に出張しますが、もう都会で電車に乗るのはしんどくなりました(笑)。
航空管制官だった叔父の影響で、もともと飛行機や宇宙に興味があり、航空整備士になろうと考え、大学では機械システム工学を選択しました。私の人生を決める出来事は3年生のときです。たまたま同級生のバイクの後ろに乗せてもらい、そのスピードと爽快感の虜になったのです。とにかく加速のすごさにびっくり。驚愕のあまり涙とよだれが同時に出るという、衝撃的な体験をしました。そこからバイクにのめり込み、これを自分で作ってみたいと思うようになりました。
4年生で流体工学研究室という人気の研究室に入れていただき、卒業研究として取り組んだのが、バーチャルステアリングという技術を搭載した二輪EV(電動二輪車)の製作です。本来は流体(空気の流れ、風力など)を研究するところなので二輪EVというのは少し外れたテーマでしたが、当時、拓大には電気自動車愛好会というサークルがあり、研究室の先生が顧問をしていたことから、私の希望を快く受け入れていただきました。
拓大の工学部は設備がとても充実していて、本格的な実験実習工場があります。授業でいちばん印象に残っているのも、やはり実習。自分で図面を引き、旋盤などの工作機械を使ってそれを形にするという、モノづくりの原点を学びました。卒業研究でも、自分で設計したバイクを形にでき、まさに今の仕事の下地になるようなことを学生のうちに経験できたわけです。
ちなみに、その二輪EVは無事完成して試走までできました。ただ、残念ながらナンバーをとって街を走るところまでは叶わず。あとは後輩に託す形になりましたが、どうなったでしょうか。さすがにもう現存していないのではないかと思いますが・・・。
就職活動では二輪の世界シェアトップであるホンダを第一志望とし、開発職を希望して試験を受けたところ、無事採用していただけました。実は、当時はまだ航空整備士の夢も諦めておらず、二本立てで就活したのですが、今はこの道を選んでよかったと思っています。
とはいえ、日々の仕事においては、しんどくて辞めてしまいたいと思うことも少なくありません。新技術の開発は、なかなか意図した通りにはいかないもの。私たちが追求するのは、乗って楽しい、所有欲を満たす魅力があり、かつ(価格が)リーズナブルなバイクですが、仮説検証を繰り返してこれなら大丈夫と思ったものがテスト段階で壊れてしまったり。逆に強度を上げようとして重くなってしまったり。部品が増えてコスト、つまり売価が上がってしまったり。バランスのとれるギリギリの線を見極めるのが難しいのです。
そもそも、開発の仕事には「ここまでやれば終わり」というのはありません。私たちのバイクがお客様にとって魅力的であり続けるためにも、常に新しい技術を生み出していく必要があります。とはいえ、たとえば自動運転技術のような、0から1を生み出す真の技術革新というのはそれほど簡単にできるものではなく、通常は10年単位の長い時間を要します。それと並行して現有技術の改良、いわば1を10にする努力も大切。製品によって異なりますが、だいたい2~4年に一度ほど新しい技術や魅力を取り込んだモデルを発売するサイクルを回しています。
また、開発部門はモノづくりの源流にあたるところです。どの市場の、どんなお客様に対し、どんなモデルを、いつ、いくらで発売するかをまず決め、商品魅力目標を掲げ、それを実現する技術手段と、コスト見通しを立てた仕様を図面化し、試作し、テストし、量産につなげていく流れのいちばん最初の部分。ここが1日遅れるだけで、最終的にお客様に届くのが遅れてしまいます。途中思い通りにいかないことがあっても期限だけは絶対に動かせません。クオリティ、コスト、デリバリー(納期)、すべてを守り切るのが私たちの仕事。プレッシャーは大きいですが、それだけ大変な思いをして作った製品がお客様に届き、喜んでいただけた瞬間、すべての苦労が報われます。
幸い、今、私は開発責任者代行として海外の製品発表会や試乗会に出席したり、販売店を訪問したりする機会に恵まれています。そのような場で直にお客様と接し、生の声を聞けるというのはエンジニア冥利に尽きますね。モノづくりの楽しさは、自分で考えたものを形にできること。それも実際に手で触れられる製品になるところが、IT系とはまた違う面白さと言えます。そして、その製品が世界の人々の生活の豊かさと、生きる楽しさにつながる。そこに喜びを感じます。
今はネットであらゆる情報が入手できる時代。海外だってネットで見れば行った気になれます。それでも、わざわざお金と時間を使って海外旅行に行く人がいるのはなぜか。やはり自分の目で見て手で触れることが大事だからでしょう。私自身は、大学時代に留学しなかったことを今になって少しだけ後悔しています。語学修得という面だけでなく、人生のもっと早い段階で世界を経験し、知見を広げておけばよかったと。
おそらく人生の中でいちばん時間の自由がきくのが、大学時代です。在学生のみなさんは、今の時間を無駄にせず、なんでもいいから日々目的をもって行動し、濃密な4年間を過ごしてほしいと思います。私がそうであったように、目的が見つけられない、やりたいことがわからない、という人こそ、積極的に行動すべきです。わからないなりに手足を動かし、色々な場所へ出かけ、さまざまなものを自分の目で見てみれば、必ず何かを得られるはずです。
何事もそうですが、表面的な情報だけで「知ったつもり」の発言と、自らの実体験に基づいた発言では、重み厚みが違います。これはもちろん就活にも当てはまります。だからこそ、時間のある学生のうちにさまざまなことに挑戦してください。その経験がきっと、この先の人生の核になります。
野島 一人さん SCHEDULE
WEEKDAY
- 7:00
-
起床
- 7:30
-
自宅発
バイクか車で通勤します。自社・他社製品問わず、会社所有のさまざまなバイクをいつでもレンタルできます。
写真:所有しているバイクの1つ(車種:Honda Hornet250)。学生時代からの愛車です。
- 8:30
-
出社
- 9:00
-
メールチェック
- 10:00
-
開発車走行テスト/評価会@社内テストコース
開発中テスト車の操縦安定性、ドライバビリティ、操作系などの性能確認や、動的評価会の対応。
- 12:30
-
昼食
毎日社食で食べています。安くて美味しいです。
- 13:30
-
機種開発チーム定例会
開発日程、設計・テスト各種進捗確認、各種課題・懸案共有を開発チームメンバーと定例的に開催。
- 14:30
-
評価車整備
エンジン・フレーム・シャーシなどのテスト結果を反映した試作部品を、評価車両へ反映。メカニック業務。
- 15:30
-
海外拠点会議(インド・タイ・中国、他)
東南アジア生産モデルの、日程・コスト・開発仕様等の会議。
- 16:30
-
対策会議
新機種開発においてトラブルはつきものです。不具合原因解析と、品質・コスト・日程を鑑みた対応策の検討、決定をします。
- 17:30
-
海外拠点会議(イタリア、他)
欧州向けモデルの、デザインスケッチ確認・外観整合・開発仕様決定等の会議。
- 19:00
-
夕食(社食)
週2回は家で食べるようにしています。
- 19:30
-
デスクワーク
開発スケジュール管理・評価会資料作成・チームメンバーのフォローアップ等
- 21:00
-
退勤
- 22:00
-
帰宅
- 24:00
-
就寝
学報TACTの記事を読む
Back number
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2024.11.01
本田技研工業株式会社 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部:野島 一人さん
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2024.08.01
スポーツライター・小説家:小宮 良之さん
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2024.05.08
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