Profile
上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒。明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科にてMBA取得。日本貿易振興機構(JETRO)にてブラジル・チリ駐在、中南米経済の調査や戦略部門での勤務経験を経て、2019年から拓殖大学国際学部へ。ラテンアメリカ、特に南米経済、企業経営戦略、通商政策などを専門とする。
“バックパックで世界を旅した学生時代に芽生えた途上国の発展に貢献したいという思い”
イノベーションで社会課題の解決をめざす
私の研究のフィールドは中南米です。というのは、もともとポルトガル語が専門だったため、前職で同地域を担当していたことが背景にあります。「中所得国の罠」という言葉がありますが、ほかの地域と同様、中南米には、高所得国に長期間移行できない国が多くあります。「どうしたらその罠から脱却できるのか?」「日本はどう関わっていけるのか?」ということを研究しています。
キーワードの一つがイノベーションです。イノベーションといっても、先端技術の開発ではなく、既存の技術の組み合わせによるイノベーションを用いて社会課題の解決をめざす新たなタイプの企業(スタートアップ)の増加に着目しています。将来はさらに多くのスタートアップがそのビジネスモデルを通じて同地域の発展への貢献と経営面での成功という2つのミッションを両立する動きが広がればと思っています。

2025年COP30が開催されるブラジルのアマゾン川河口の町、ベレンのイノベーションセンターで
起業家が生まれ育つ土壌を作るために
そのためにはまず、スタートアップ輩出の土台としてのエコシステム振興策の比較・分析が必要です。
多くの国や自治体が「次のシリコンバレー」を作ろうと、企業の啓蒙活動や研修、補助金プログラムなどを実施してきましたが、どうもうまくいきませんでした。
近年は、そういったいわば種の上に水をかけることに重点を置く施策ではなく、種がまかれた鉢の土をより豊かにする政策を展開する国・自治体が現れ始めています。
起業したい人のアイデアや熱意が、どうすれば発芽し、大木になれるのか。それにはまず肥えた土壌(エコシステム)作りが必要です。ノウハウを教えてくれる人たちが周りにいて、その交流の密度が高ければ高いほど、たくさんのスタートアップが生まれ育つと言われています。現在、私はスタートアップ・エコシステムの形成がまだ初期段階にあるドミニカ共和国の政府に対し、国際協力機構(JICA)の事業を通じ、政策提言をしています。
このように、研究成果をふまえた実践を通じて、中南米諸国の発展に貢献し、雇用機会を増やすというのが、私の人生の目標です。


きっかけは、学生時代の貧乏旅行
私がビジネスを通じた国際貢献に興味を持ち始めたきっかけは、学生時代の貧乏旅行でした。バックパックを担いで、アフリカやアジアなど、いろいろな国をまわりました。アフリカ・タンザニアでレンタル自転車のタイヤがパンクして修理してもらった際、その修理屋さんとおしゃべりしていて、ふと日本からの援助の話題になりました。その時、「援助もありがたいが、やっぱり自分たちで働くことだよね」と、そんな言葉がおじさんの口からポンと出てきたのです。「自分で働いた金で家族を養いたい」と。先進国が途上国のインフラを作るような「援助」だけでは足りないのではないか、「雇用機会を増やす」ということが重要なのではないかと感じた瞬間でした。
人生の柱を見つけることができた私はその後、日本貿易振興機構(JETRO)に就職し、日本と海外のビジネスの橋渡しができる場所で経験を積んでみようと、日本企業の海外進出支援を通じた現地での雇用創出などさまざまな取組に携わりました。そしてその経験を今、大学の授業や研究、政府機関やメディアから依頼された仕事でいかしています。




人生の柱になるものを見つけてほしい
授業では、中南米の経済や政治、歴史、文化、地域の概要、そして経営について教えています。ただ、教えるというより、毎回グループワークを取り入れて、学生から引き出すことを重視しています。スプレッドシートに学生それぞれがスマホやタブレットから自分の意見を書き込める、全員参加型の授業です。「あなたがもし、この時代、この国の大統領だったらどうしますか?」と、当時の人になりきって考えてみることも。考えたことに対して、「実際に起きたこと」をフィードバックすることで、さらに考えを深め、気づきを得られる授業を心がけています。まずは自分の考えを発信することで、記憶が定着する。だからこそ、アウトプットはすごく重視しています。
4年間は、あっという間に過ぎていきます。その中で、何か1つ、自分の人生の柱になるようなものを見つけてほしいです。それを探すには、行動を起こさないと何も始まりません。それは旅でも、アルバイトでもいいと思います。ネットを通じていろんな情報が入ってくる時代になりましたが、ネットに出てこない情報もたくさんあります。同じ属性の人たちや情報にばかり接していては世界観が狭まります。イノベーションは多様な個性の集団から生まれやすいと言われています。自分と異なる意見や個性の人、未知なる「知」との出会いを経て、自らを進化させてほしいですね。

Column
趣味はラグビー。登山や激流下りも!
中学、高校とラグビーをやっていて、大学ではクラブチームに入り、社会人と一緒に週に1回、プレーしていました。その時に関東の大会で優勝し、アメリカの大会に参加したのがはじめての海外旅行。自由時間に訪れたメキシコの国境が、はじめて触れた途上国でした。現在は拓殖大学ラグビー部の部長を務めていますが、ラグビーは観ることも、戦術を研究することも好きなので、趣味と実益を兼ねています(笑)。
登山も好きで、キリマンジャロに登ったり、エベレストのベースキャンプまでトレッキングしたこともあります。そして登山とセットで楽しむのが川下り。南米に駐在していたときは、ペルーやエクアドルで激流下りをしたり、ベネズエラのテーブル・マウンテン近くを流れるカロニ川の川下りや、上流のジャングルを3日ほど探検したこともあります。

